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あきる野9条の会学習会・2010年4月11日・あきる野市中央公民館*
「韓国併合」100年と『坂の上の雲』
梅 田 欽 治
(1) 今年(2010年)は、どのような課題と対決することになるか。
昨年の総選挙での国民の審判により開かれた日本政治の新しい状況のなかで、私たちが対決する基本的な課題―いのちと暮らし、「九条」を守る要求実現、鳩山内閣のもとでの憲法問題の重要性、そしてそれらを発展させるための参議院選挙。そしていくつかの節目の年の課題。
・ 「現行安保条約」50年―沖縄基地問題から軍事同盟終了へ、「九条」を守る基本問題。
・ 「韓国併合」100年―植民地支配の歴史認識の共有、 「九条」の基盤となる東アジア共同体へ。
・ 『坂の上の雲』テレビ放映問題―作者の歴史観の批判を通して近代史の学習を。

(2) 「韓国併合」は、どのようにすすめられたか。
@日露戦争の過程と戦後に軍事侵略と並行して「併合」を強制。
・ 1904年2月10日―日露戦争宣戦布告
・ 同 3月23日―日韓議定書(韓国の政治全般、とくに内乱鎮圧に日本が関与する)
・ 同 8月22日―第一次日韓協約(韓国の財務に日本が関与する)
・ 1905年9月 5日―日露講和条約(日本の韓国保護権を承認)
・ 同 11月17日―第二次日韓協約(保護条約、外交権を日本が掌握)
・ 1907年7月24日―第三次日韓協約(内政全般の権限を日本が掌握)
・ 1909年7月 6日―桂太郎内閣が閣議で「韓国併合方針」を決定。
・ 同 10月26日―初代統監伊藤博文が安重根にハルピンで暗殺される。
・ 1910年8月22日―「韓国併合」に関する条約調印。
A韓国人民は、どのように抵抗闘争を展開したか。
・ 「東学」という民衆宗教に結集した農民蜂起―「東学農民戦争」(1894年)
・ 日韓協約、とくに「保護条約」 「併合条約」に反対・抗議した人民闘争―「義兵闘争」
B日本国民は「韓国併合」をどのように見ていたか。
・ 日露戦争の勝利による日本国民のなかにナショナリズムの高揚。
・ 日清戦争により台湾を、日露戦争により樺太南部を、そして「韓国併合」による朝鮮の植民地化により、アジアにおける「大国」に成長したと歓迎。
・ 社会主義者や、内村鑑三・田中正造などが「併合」に反対した。
* 東京の社会主義者の決議「吾人は朝鮮人民の自由、独立、自治の権利を尊重し、これに対する帝国主義的政策は万国平民階級共通の利益に反するものと認む、故に日本政府は朝鮮の独立を保障すべき言質に忠実ならんことを望む」(1907年7月21日、『大阪平民新聞』5号)〜「外国文に翻訳して欧米の新聞・雑誌にも送付」

(3) 「大逆事件」の意味するもの
@「大逆事件」とはなにか。
・ 「大逆事件」〜桂太郎内閣のもとで、26人の社会主義者を、事実上、無実の罪で逮捕し、刑法第73
条により幸徳秋水など12名を死刑にして恐怖政治をつくり出した事件。
・ 元老山縣有朋、首相桂太郎のもとで、平沼騏一郎司法省民刑局長・大審院次席検事が検挙・取調べから判決まで指揮(平沼は、のち検事総長、司法大臣、貴族院議員、枢密院議長、1939年には総理大臣)。
* 明治刑法第73条「皇室危害罪(大逆罪)」〜「天皇・太皇太后・皇太后・皇后・皇太子・又ハ皇 - 3 -
太孫ニ対シ危害ヲ加ヘ又ハ加ヘントシタル者ハ死刑ニ処ス」
・ 1910年5月に宮下太吉を爆裂弾製造・所持を理由に逮捕、これを利用して6月1日に幸徳秋水を
逮捕し、以後、全国から社会主義者逮捕、合計26名。1911年1月18日に判決、2名は爆発物取締罰則違反として11年と8年の懲役刑、24名に死刑判決、直後に恩赦で12名が無期懲役刑、幸徳秋水など12名は1月24日に死刑執行(管野すがは25日)。
A「大逆事件」の影響
・ 石川啄木「時代閉塞の現状」、森鴎外「沈黙の塔」、永井荷風の作品など。
・ 徳冨蘆花は「天皇陛下に願い奉る」という嘆願書を提出、しかしすでに死刑が執行されていたことを知り憤激、予定されていた第一高等学校弁論部の講演の演題を「謀叛論」に変更して生徒に訴えた。
* 徳冨蘆花「謀叛論」〜「‥‥幸徳君らは時の政府に謀叛人と見做されて殺された。諸君、謀叛を
恐れてはならぬ。謀反人を恐れてはならぬ。自ら謀反人となるを恐れてはならぬ。新しいものは常に謀叛である。‥‥」
・ 社会主義者の弾圧〜堺利彦は「売文社」を開業、社会主義者の生活を助ける。

(4) 植民地支配の完全な清算と歴史認識の共有の課題。
@戦後の日韓関係での日本政府の態度
・ 1945 年の日本の敗戦により、「ポツダム宣言」にもとづいて朝鮮は植民地から解放された。日本が自主的に行ったのではないという重い課題。そして米ソ対立の情勢のもとで、朝鮮は南北に分断されたという困難な歴史的事情。
・ 戦後50年の「村山富市首相談話」(1995年)〜「過去の政治的道義的誤りを謝罪」、しかし「併合条約は法的には合法、有効」という立場をとり、現在に至っている。[吉岡吉典『「韓国併合」100年と日本』(新日本出版社刊)参照]
・ 「韓国併合に関する条約」(1910年)は、その経過をみれば「友好的」に結ばれたとはいえない。
韓国の内政権とともに外交権をも日本が奪った状況下での条約を 「合法的」「有効」 とはいえない。
・ 植民地支配〜総督は天皇直属、軍事支配、憲兵警察制度、出版・結社・集会の自由弾圧。
皇民化成策〜神社参拝強制、国語(日本語)常用強制、創氏改名、国民服強制など。
→徴兵制、強制連行、従軍慰安婦の強要など。
A植民地支配の清算と歴史認識の共有を実現しよう。
・ 東アジア共同体の構築は、日本国憲法「九条」の堅持と歴史認識の共有を基盤。

(5) 司馬遼太郎『坂の上の雲』のテレビ放映をどうみるか。
@作者の「遺言」―「テレビ化・映画化は許さない」
・ 半藤一利氏の証言〜「下手な読み方をすると、世界に冠たる日本帝国建設を誇らしげに書いたも
の、ということになりかねない」「ナショナリズムをたいそうくすぐられて、日本はすべからくこのような勇壮で、闘志満々、先頭に立って世界をリードしていかねばならない、なんて大言壮語する人もでてくる。危険な要素がいっぽうに一杯ある」という司馬さんの心配(半藤一利『NHK人間講座・昭和の巨人を語る―清張さんと司馬さん』)
A歴史書と文学(小説)の違い。
・ 歴史の書物と異なり、文学(小説)では作者のフィクション(つくりごと)が入る。また事件や
人物の取り上げ方が異なり、強調や捨象があり得る。このことを念頭において批判や注文をする
ことになる。
・ 作品を映像化してテレビ放映や映画上映の場合には、作者の意図が倍増されて視聴者に受け止め
ることになりやすい。
・ 読者や視聴者は、文学(小説)やその映像化されたものをすべて史実(事実)として受け止める
ことになりやすい。ここに警戒すべき点があるといえよう。
B作者の歴史観が問題。
・ 作者によるフィクション(つくりごと)、事件・人物等の強調や削除などには作者の歴史観が関係
していることが多い。この作品でも、たとえば日露戦争を「祖国防衛戦争」と規定していること
が一番に検討課題になるだろう。日本もロシアも、ともに領土拡大の帝国主義戦争であったのではないか、ということである。この点はこの小説の根幹に関わることなので見逃せない。「明治」を「明るい時代」「楽天的な時代」としているのも気がかりである。
・ 作者は「明治」の時代と「昭和」の時代を切り離してとらえている。しかし作者が体験にもとづいて嫌悪感をもっている「昭和」の戦争の時代は「栄光の明治」としている時代につながっている。「明治」の時代が「昭和」のアジア侵略戦争に続いている。
・ 近代史を学習し話し合う機会にしよう。[中塚明『司馬遼太郎の歴史観』(高文研刊)参照] C作者の意図の変更
・ 作者は「雲の上」をめざす青年を追い続けたが、最終章は「雨の坂」である。長い作品を書き続けるなかで戦争の悲惨さを体験し、戦争に勝利したのちの社会は憂鬱なものであった。作者の意図はおのずと変化したのではないだろうか。

(6) <補論>現行安保条約50年・安保闘争50年の課題をどう考えるか。
・ 鳩山内閣のもとでの「九条」問題、自民党衰退下の新党計画での憲法改悪という「理念」。
・ 米軍基地65年という異常な事実をどう考えるか。
・ 「核密約」をはじめとする国民を危険におとしいれてきた「密約」50年をどうみるか。
・ 「抑止力」という考え方をどうするか。米軍基地は日本を守ってきたか。
・ 60年安保闘争の成果の一つ、第10条に「終了」の規定、これを大いに利用しよう。
・ 世界の平和の流れのなかで「九条」を根本的に学習しよう。
(終わり)
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