ISSUEBRIEF
公共放送の在り方
―NHK改革をめぐる議論―
国立国会図書館 ISSUE BRIEF NUMBER 516(MAR.3.2006)
http://www.ndl.go.jp/jp/data/publication/issue/0516.pdf
我が国の公共放送 NHKについては、受信料の不払い、政治との距離、不透明な経営、新サービスによる民業圧迫など様々な問題が指摘されている。受信料の不払いは約 3割にのぼるが、法律上罰則はなく、対価意識の高まる社会の中で制度の在り方が問われている。<br>
我が国の放送制度は、NHKと民放の二元体制のもとで展開されてきた。しかし、「多メディア・多チャンネル化」、「通信と放送の融合」といったデジタル時代への移行とともに、制度を再設計する必要が生じている。
NHK改革の議論は、受信料制度の不公平解消にとどまらず、デジタル時代において NHKが担うべき公共放送の範囲と、その財源の策定を目的とするものである。国民のメディア環境の将来像にもつながる議論が求められている。

国土交通課 しみずなおき (清水直樹) 調査と情報 第516号

日本放送協会(以下、 NHK)は、平成 16年に発覚した相次ぐ不祥事(職員による番組制作費の着服など)を発端に、受信料の支払い拒否が急増し、平成 17年 1月には海老沢勝二会長が辞任するにおよんだ。また、政治介入による番組改変疑惑報道 1もあり、その後も NHK不信、支払い拒否は拡大し、受信料の不払いは約 3割にのぼっている。
これらの事態を契機に、 NHK改革に関する議論が本格化している。「規制改革・民間開放推進会議」は、平成 17年 12月の答申で、受信料制度など公共放送の在り方の早急な検討を求めた。また、竹中平蔵総務大臣も、通信と放送の融合を議論する私的懇談会を設置し、平成 18年 1月より、NHK改革をテーマの 1つに検討を開始している。
今後の議論は、 NHKが担うべき公共放送の範囲とは何か、そのための財源はどうあるべきかを焦点に展開していくものと思われる。本稿は、公共放送の在り方、受信料制度などについて概観し、 NHK改革をめぐる議論の論点を整理しようとするものである。

T 公共放送とは
1公共放送の役割
 公共放送の役割は、市場原理に任せたのでは十分に達成できないと考えられる「多様で質の良い番組を供給すること」にあるといわれる 2。その理由としては、@広告収入で事業を成立させる商業放送では、視聴率獲得を重視するため、番組の質が視聴者の選好の中間点へ類似していくこと 3、A放送は、視聴者や広告主が事前に内容を確かめて消費できる性質ではないため、番組の質の低下が起こり得ること 4、が挙げられる。
公共放送は諸外国でも広く行われているが、その形態は多様であり、明確に定義するのは困難である。しかし、その「基本原理」として、例えば、世界ラジオテレビ機構( World Radio and Television Council)は、以下の 4点を挙げる 5。
@普遍性(全国民に視聴機会を提供し、大衆のための番組を放送すること)
A多様性(番組のジャンル、対象とする視聴者、議論される主題が多様であること)
B独立性(商業的圧力、政治的影響力から自由であること)
C特殊性(商業放送との区別を認識し、放送界を先導する役割を果たすこと)

2 公共放送の財源
公共放送の財源は、その独立性と密接に関係する。 NHKは視聴者から広く徴収する受信料で維持運営する制度をとっているが、諸外国では広告放送による収入を認め、受信料や政府交付金との混合財源をとる国が多い。混合財源については、 BBCの委託でマッキンゼー社が行った各国の公共放送の調査報告書では、「広告収入の割合が高いほど、公共放送
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1 『朝日新聞』 2005.1.12.の報道。 NHK教育テレビが平成 13年 1月 30日に放送した「 ETV2001戦争をどう裁くか、問われる戦時性暴力」が、自民党議員の圧力によって内容が放送直前に改変された、と報じた。
その後、政治的圧力の有無が議論になった末、朝日新聞が委託した第三者機関は「真実と信じた相当な理由はあるにせよ、取材が十分であったとは言えない」とし、秋山耿太郎社長は「取材の詰めの甘さを深く反省します」などとするコメントを発表した。(『朝日新聞』 2005.10.1.)

2 長谷部恭男「公共放送の役割と財源」舟田正之・長谷部恭男編『放送制度の現代的展開』有斐閣 , 2001, p.212.
3 ホテリングの「製品差別最小化原理」(中村清「広告放送・有料放送・公共放送」郵政省郵政研究所編『有料放送市場の今後の展望』日本評論社 , 1997, pp.179-180 ; 長谷部前掲注 2, pp.191-192.) 4悪財が良財を市場から駆逐する、いわゆる「レモン原理」の作用(菅谷実ほか「多メディア乱立時代の公共放送」『公益事業研究』 49巻 1号, 1997.10, pp.23-29.) 5 World Radio and Television Council, Public Broadcasting, Why? How? 2001, pp.11-13.
<http://unesdoc.unesco.org/images/0012/001240/124058eo.pdf>
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らしさは薄れる」と分析されている 6。同報告書は公共放送の理想的な財源の条件として、
@商業放送に対抗できる十分な資金規模、A政治的、商業的影響力からの独立、B中期的な安定が予測可能なこと、C単純で公正な制度、を挙げる。

3諸外国の公共放送(巻末の付表「諸外国の公共放送」も参照)
公共放送には大きく 2つのタイプがあるとされる。 1つは、わが国やヨーロッパに広くみられる「積極的な文化的機関と位置づけられている伝統的なタイプ」、もう 1つはアメリカのような「商業放送が基本に据えられる中で、市場の失敗が生じる部分の補完を担うタイプ」である 7。
イギリスの BBCは、10〜15年毎に更新される「国王の特許状」で権限や業務が定められる公法人である。主要財源は受信許可料であるが、現行の 1996年特許状で商業活動が認められ、会計分離された子会社(テレビ国際放送の「 BBCワールド」など)の利益は BBC本体に還元される仕組みとなっている。現行の特許状が 2006年末に期限を迎えるため、新特許状起草に向けた検討が現在行われており、受信許可料制度の当面 10年間の維持、BBC内の最高意思決定機関の監督機能の強化などが盛り込まれる見込みである。
フランスの公共テレビ局( F2、F3、F5)は、政府が完全保有する持ち株会社フランス・テレビジョン( France Televisions)の傘下にある。公共放送の財源として、広告収入が、商業放送のなかった時代から認められており、その割合も約 30%と少なくない。受信料は税金の扱いで徴収され、不足分を国費で補助した上で、政府予算法として議会の承認を経て各放送局に分配される。また、各局の最高意思決定機関のメンバーに政府代表が入るようになっており、財源・組織両面で政府の直接的な関与がある制度となっている。
ドイツの公共放送は、州放送協会の連合体 ARDと、全国放送を行う単一組織 ZDFの 2つの機関が実施している。連邦制の原理に基づき、放送の組織や内容に関する立法権限は州の所管事項となっており、全国向けの公共放送や受信料制度などは州際協定で規定される。ARD、ZDFには、受信料収入以外に広告収入も補完財源として認められているが、実施制限が厳しく、商業放送の発展に伴ってその割合は大きく減少している。
アメリカでは、各地の約 350の非商業放送局が、非営利の公共放送ネットワーク組織(PBS)から番組(主に教育・教養系)の提供を受け、放送を行っている。各放送局は PBSのメンバー局という位置づけにあるが、番組編成権や放送免許は各局が独立に持ち、運営形態(非営利組織、大学、州政府など)や規模も多様である。その財源も、連邦政府交付金、個人寄付金、(広告収入に近い)企業からの拠出金、など多岐にわたる。アメリカでは商業放送が発達しており、公共放送の役割は、商業放送の番組の偏りを補うことにある。

U NHKの現状と問題点
1放送の二元体制
我が国の現在の放送制度は、昭和 25年 6月施行の電波三法(放送法(昭和 25年法律第 132号)、電波法(昭和 25年法律第 131号)、電波監理委員会設置法(昭和 25年法律第
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6 McKinsey & Company, Public Service Broadcasters Around the World : A McKinsey Report for the BBC. 1999, quoted in Monroe E. Price and Marc Raboy, Public Service Broadcasting in Transition : A Documentary Reader.Hague: Kluwer Law International, 2003, pp.6-11. 7越川洋「公共放送の経済的意義」菅谷実・中村清編『放送メディアの経済学』中央経済社 , 2000, p.110.
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133号、昭和 27年に廃止))を出発点とする。当時の我が国の放送は、社団法人日本放送協会によるラジオ放送が唯一の放送であった。連合国最高司令部(GHQ)主導で立案された放送法では、社団法人日本放送協会の一切の権利義務を承継する公共放送事業体の NHKと、電波法による放送局免許を受けて自由な運営をする一般放送事業者(いわゆる民間放送事業者、以下「民放」)の、二元体制が敷かれることとなった。
放送の二元体制においては、NHK、民放が、「おのおのその長所を発揮するとともに互いに他を啓蒙し、おのおのその欠点を補い、放送により国民が十分福祉を享受できる」8ことが期待されている。すなわち、NHKは、受信料を財源として、全国民の要望を満たすような番組をあまねく全国に放送する役割を担う。一方、地上波の民放は、県域を基本とする放送局免許のもと、地域との密着性を期待されながら、営利事業として放送を行う。放送の二元体制は、この両者の並存によって、言論表現の多様性・多元性を確保し、健全な民主主義の発展に寄与しようというものである。

2 NHKの使命と業務範囲
放送は、電波が国民共有の有限希少な資源であること、言論機関としての高い公共性と社会的影響力の大きさから、NHK、民放を問わず、本来公共性が求められる事業である9。その上で、二元体制のもと、民放が自由な運営を認められる一方、NHKには公共放送事業体としての使命がある。NHKの使命は、放送法の規定をもとにすると、以下の 5点に集約できる10。

@国民の多様な要望を満たすとともに、我が国の文化水準の向上に寄与する豊かでかつ、優れた放送番組を放送すること
Aあまねく全国において放送が受信できるよう良質な送信機能を維持すること
B全国向け放送番組のほか、地方向け放送番組を提供すること
C放送およびその受信の進歩発達に必要な調査研究を行い、その成果をできる限り一般に提供すること
D国際親善の増進および経済交流の発展に資するため国際放送等を実施すること

NHKの業務は放送法第 9条に列挙されているが、近年議論となっているのは、上記の使命を果たすため、NHKの業務範囲の拡大がどこまで認められるかである。インターネットで番組を提供する事業、BS放送による 24時間ニュースチャンネル構想などの新サービスは、それ自体は有為であるが、民間の同様の事業を圧迫する恐れがある。また、NHKは、昭和 57年の「放送法等の一部を改正する法律」(昭和 57年法律第 60号)により、その業務に密接に関連する事業11を行う者に出資できることとなり、子会社、関連会社との取引を行うようになった。しかし、子会社等との不透明な取引、子会社等が NHKを背後に行う過度な商業活動は、批判のあるところである12。
総務省は、これらの課題を議論した放送政策研究会の報告13の内容を踏まえ、平成 14年
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8網島毅電波監理長官の放送法案提案理由説明(第 7回国会衆議院電気通信委員会議録第 1号昭和 25年 1月 24日 p.20.) 9例えば、放送法における「放送対象地域におけるユニバーサルサービスの努力」(第 2条の 2第 6項)、「番組の編集準則」(第 3条の 2第 1項)、「番組の調和義務規定」(第 3条の 2第 2項)など。 10片岡俊夫『新・放送概論』日本放送出版協会, 2001, pp.72-73.に依拠する。 11出資対象となる「密接に関連する事業」は、「放送法施行令」(昭和 25年政令第 163号)第 2条に規定されている。 12「平成 16年度 NHKと関連団体との取引について」によると、平成 16年度の子会社等との取引 198件、1004億円のうち、185件、988億円が随意契約であった。<http://www3.nhk.or.jp/pr/keiei/dantai/pdf/torihiki16.pdf> 13『第一次報告』放送政策研究会, 2001.12. <http://www.soumu.go.jp/s-news/2001/011221_3.html>
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3月、NHKのインターネット利用、および子会社等の業務範囲等に関するガイドラインを策定した 14。これに対して、日本民間放送連盟は、ガイドラインの内容では不十分だとして、その改正を求めている 15。

3 NHKと国会との関係
NHKは、社団法人日本放送協会の財産、すなわちそれまでの聴取契約者の聴取料の蓄積を承継したもので、設立にあたり政府の出資を受けていない。加えて、表現の自由の保障の観点から、他の公社、公団に比べて行政府による規制は少なく、国民の代表である国会による規制を基本としている(表 1参照)。

表 1 NHKに対する主な規制

規制の機構と内容事項総務大臣内閣国会会計検査院関係条文(名称の記載のない条文は、放送法)経営委員会の委員内閣総理大臣が任免両議院の同意第16条、18条、19条、20条人事会長・監事(経営委員会が任免)第27条、29条第1項収支予算事業計画資金計画提出意見(経由)承認第37条財産目録貸借対照表損益計算書提出提出------------提出------------検査第40条財務会計検査第41条決定受信料の月額※収支予算承認により決定第37条第4項受信契約の条項認可第32条第3項受信料受信料免除の基準認可第32条第2項業務報告書提出意見(経由)報告第38条定款の変更認可第11条第2項放送法に列挙されたもの以外で、放送及びその受信の進歩発達に特に必要な業務認可第9条第2項第6号、9条第8項認可出資※収支予算、事業計画、資金計画の定めるところによる第9条の2放送法施行令第2条業務委託基準の策定・変更届出第9条の3国際放送命令第33条、35条第2項業務放送に関する研究命令第34条、35条第2項放送局の開設免許、予備免許電波法第4条、8条、12条放送施設放送局の監督監督(免許の取消等)電波法第6章(出典)『NHKの長期展望に関する提言』 NHKの長期展望に関する審議会 , 1990.2, p.108. をもとに作成
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14ガイドラインの内容は、「インターネット業務は、放送の補完利用として年額 10億円程度まで」、「子会社等の業務範囲は、原則として NHKの出資対象事業に限定」、「業務の委託基準は、やむを得ない場合を除いて競争契約を原則とする」などとなっている。 <http://www.soumu.go.jp/s-news/2002/020308_1.html> 15『「デジタル時代における放送の二元体制」に関する検討報告』日本民間放送連盟 , 2004.12, pp.5-6.
<http://www.nab.or.jp/htm/press/20041216/20041216.pdf>
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平成 17年 1月に報道された、自民党議員の介入による番組改変疑惑16では、NHKが政治権力に屈しているのではないかということが改めて問われた17。憲法や放送法で放送の自由と自律が保障されているにも関わらず、NHKへの政治介入の存在が疑われる原因の 1つとして、国会による予算承認権が挙げられる18。特にその承認過程が、政府提出の法律案同様に与党審査を経る仕組みになっていることが、NHKを有力政治家の動向・意見に敏感にならざるを得なくしていると指摘されている19。NHKは、番組改変疑惑について、政治的圧力を背景とした番組改変はないと主張するものの、政治家への番組の事前説明の在り方20など、政治に対する姿勢が問われているといえよう。

V 受信料制度
NHKは、広告放送を禁止されており(放送法第 46条)、その財源の大部分を受信料収入に依存する。平成 18年度の NHK予算においては、事業収入(約 6218億円)の約 95.5%にあたる、約 5940億円が受信料である21。諸外国では公共放送に広告収入を認める国があるが、我が国の放送の二元体制は、NHKと民放が完全に異なる財源に拠ることを基本としている。受信料制度は、NHKの財源が、@広く国民全体の負担に依拠するものであること、ANHKの高度な自主性、中立性が確保されるものであること、が必要との観点に基づく22。

1受信料の法的性格
放送法には受信料の定義は存在しない。政府は受信料の性格を、税金でも、視聴の対価でもない、費用分担的性格をもつ「特殊な負担金」と解釈している23。
しかし、平成元年に受信料に消費税が課税された際には、「消費税法施行令」(昭和 63年政令第 360号)第 2条で、受信料は「対価を得て行われる資産の譲渡等に類する行為」とされた。政府は受信料の性格について、「何ら変更はない」とするものの24、カラー契約
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16前掲注 1参照 17これまでの NHKと政治との距離感については、上丸洋一「検証 NHKはどう論じられてきたか、「政治との距離」を軸に」『AIR21』186号, 2005.11, pp.2-24.などの文献がある。 18例えば、長谷部恭男「NHK問題の本質は制度問題である」『世界』741号, 2005.7, pp.70-76.
これに加えて、内閣総理大臣の経営委員の任免権、政府の放送法改正法案の提出権を原因に挙げるものもある。(松田浩『NHK−問われる公共放送』岩波書店, 2005, pp.114-134.) 19山本博史「 「「NHK新生プラン」から NHKを考える」『AURA』173号, 2005.10, pp.40-45.によると、昭和 33年以降、NHK予算案は国会審議前に自民党政調会にかけられるようになった。 20 NHKのコンプライアンス推進室の報告書(平成 17年 1月 19日)では、事前説明について「業務遂行の範囲内」と正当化している。<http://www.nhk.or.jp/pr/keiei/news/005.html>
平成 17年 1月 25日に就任した橋本元一会長はその後、事前説明について、「放送の前に番組の内容を政治家の方々に説明する必要があるということは、全く考えておりません」と述べている。(第 163回国会衆議院総務委員会議録第 6号平成 17年 10月 21日 p.15.) 21受信料以外の収入としては、交付金収入 23億円(国際放送、選挙放送関係交付金)、副次収入 100億円(番組二次使用等による収入、施設利用料等)、財務収入 55億円(受取利息、受取配当金)、雑収入 5億円(前々年度以前受信料の回収等)、特別収入 95億円(固定資産売却益、アナアナ変換対策給付金等)を計上している(1億円未満四捨五入)。 22『ニューメディア時代における放送に関する懇談会(放送政策懇談会)報告書』放送政策懇談会, 1987.4, p.62 23例えば、村上勇郵政大臣の答弁(第 75回国会衆議院逓信委員会議録第 21号昭和 50年 6月 18日 pp.3-4.)

「NHKの業務を行なうための費用の一種の国民的な負担であって、法律により国が NHKにその徴収権を認めたものである。国がその一般的な支出に当てるために徴収する租税ではなく、国が徴収するいわゆる目的税でもない。国家機関ではない独特の法人として設けられた NHKに徴収権が認められたところの、その維持運営のための「受信料」という名の特殊な負担金と解すべきである。」 24成川富彦郵政省放送行政局長の答弁(第 114回国会衆議院逓信委員会議録第 2号平成元年 3月 23日 p.13.)

なお、NHKは当時、受信料の性格上、受信料への消費税課税には消極的であった。
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の導入(昭和 43年)、衛星契約の導入(平成元年)と、新しい放送開始のたびに異なる料金種別が導入されてきたことも鑑みると、対価的性格を有する点が見出せなくもない25。

2受信料徴収の法的根拠
受信料は、「放送法」(昭和 25年法律第 132号)で大要、@NHKのテレビ放送を受信できる受信設備を設置した者は、NHKと受信契約をしなければならない(第 32条第 1項)、
A総務大臣の認可を受けた基準によるのでなければ、NHKは契約者から受信料を免除してはならない(同第 2項)、BNHKは、受信契約の条項については、あらかじめ総務大臣の認可を受けなければならない(同第 3項)、と規定されている。受信料の支払い義務は、第 1項と第 2項の規定を両面から解釈することで必然的に導かれるとも考えられるが26、明文で規定しているのは受信契約の強制に過ぎない。受信料支払いに関する契約の条項は、第 3項の規定に基づき NHKが定める「日本放送協会放送受信規約」(昭和 25年電波監理委員会告示第 17号)に示されている。すなわち、放送を受信できるテレビの設置者は、NHKの放送の視聴の有無に関わらず、NHKとの受信契約を強制されて、NHKと私法上の契約を締結する仕組みになっている。
法律上の問題として、「受信契約の強制は、契約の自由を否定し、このことは思想及び良心の自由を保障する憲法第 19条に違反するのではないか」との主張がある。これに関して、内閣法制局は、契約強制は、公共の福祉のために放送を行う NHKの維持のために、受信料を取る手段として設けられているものであり、憲法に違反するものではないとの解釈を示している27。
また、「受信契約にも、双務契約における『同時履行の抗弁権』(民法第 533条)が適用されるため、NHKが「政治的に中立である」などの債務を履行するまで、受信料支払いを停止できる」という主張もある28。

3受信料の不払い問題
放送法には、受信料の不払い(NHKの放送を受信できる設備を設置しているにも関わらず受信契約を締結しない、あるいは受信契約はしたが受信料を支払わない)に対する罰則、強制的徴収手続きは規定されていない29。ゆえに、受信料の不払いに対しては、国家と受信者という公法関係ではなく、NHKと受信者の私法上の問題として、NHKが民事手続きによって解決するほかない。

これまでには、受信契約の義務制について、直接に支払義務を規定して法律関係を簡明にする動きが 2度あったが、実現していない。昭和 41年の放送法改正法案(第 51回国会閣法第 117号)、および昭和 55年の改正法案(第 91回国会閣法第 71号)には、「協会に
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25宍戸常寿「公共放送の「役割」と「制度」」」ダニエル・フット・長谷部恭男編『メディアと制度』(融ける境超える法 4)東京大学出版会, 2005, p.153. 26例えば、小野吉郎 NHK専務理事(のちに会長)の説明(第 38回国会衆議院逓信委員会議録第 9号昭和 36年 3月 10日 p.8.) 27味村治内閣法制局第二部長の答弁(第 84回国会衆議院逓信委員会議録第 6号昭和 53年 3月 1日 p.24.)
また、現行法で私人にサービスの利用を強制する例(下水道法における排水設備の設置(第 10条)、水洗便所への改造(第 11条の 3)))を挙げ、問題は法律による強制それ自体ではなく、強制する根拠の合理性の有無にある、とする指摘もみられる。(塩野宏『放送法制の課題』有斐閣, 1989, p.263.) 28醍醐聰「受信料支払い停止運動の論理(NHKの正体−受信料支払い拒否の論理)」『金曜日』13巻 16号(別冊),2005.4.8, pp.85-92. 29「日本放送協会放送受信規約」には、受信契約者の支払い不正に対する割増金(第 12条)、延滞利息(第 12条の 2)の規定はあるが、これは私法上の契約条項に過ぎない。
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受信料を支払わなければならない」とする規定が盛り込まれた。審議においては、実際の受信料収納への効果に対する疑問、特に 55年改正法案については、政府の NHKへの影響力強化への危惧が出される中、両法案とも審議未了で廃案となった。以後は、「支払い義務制の導入が直ちに受信料の収納効率の向上につながるか等の点から慎重な検討を必要とする」30とされるように、改正法案の提出はない。
近年、NHK不信が強まる中、受信料の支払い拒否・保留が急増した。平成 17年 9月末時点では、不払い率 29.5%と NHKは推計する(表 2)。NHKは平成 17年 9月発表の「新生プラン」 31で、受信料不払いに対して、民事手続きによる支払い督促を行う考えを初めて明らかにした。しかし、督促には費用がかかる上に件数が多く、また未契約世帯がテレビを設置していることをどう証明するのかなど、実効性は疑問視されている 32。
なお、総契約率 79.2%(平成 17年 9月末の推計値)は、平成 16年以降の NHK不信で急激に低下したものではなく、 10年前と比較して数値に大きな変化は見られない(表 3)。また、受信契約すべき事業所数を、 NHKの推計よりも多く見積もり、実際の総契約率を 7〜6割以下と試算する説もある 33。受信料の未契約の問題は、一時的なものではなく、制度の構造的なものであるといえよう 34。
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表 2 NHKの受信契約(世帯・事業者の総数)の状況(平成 17年 9月末現在)
受信契約の対象と
4596万件
100%
なる件数(推計) 契約件数
3638万件(総契約率: 79.2%)支払い件数:3239万件
70.5%未契約件数 (出典)平成 17年 9月 20日「新生プラン」発表時の NHKによる推計値

表 3契約率の推移

未払い件数:399万件・不祥事に伴う支払い拒否・保留: 130万件・口座振替の利用中止に伴う未納状態: 130万件・経済的な理由や長期不在などによる滞納:139万件958万件不払い率:29.5%年度(平成) 8年度 9年度 10年度 11年度 12年度 13年度 14年度 15年度 16年度世帯契約率 82% 82% 82% 82% 82% 82% 82% 81% 80% 事業所契約率 71% 73% 74% 74% 76% 76% 76% 77% 76% 総契約率 81.6% 81.7% 81.5% 81.2% 81.3% 81.4% 81.3% 81.1% 79.9%
(出典)NHK経営広報部資料、「通信・放送の在り方に関する懇談会」配布資料をもとに作成
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30放送政策懇談会前掲注 22, pp.63-64. 31「NHK新生プラン」 <http://www3.nhk.or.jp/pr/keiei/plan/pdf/plan.pdf> 32請求額 10万円以下の場合、手数料 500円、郵便切手 1200円の合計 1700円程度が必要となる。視聴者が異議申し立てをして訴訟となった場合、追加の手数料 500円、郵便切手 6000円程度が必要となる。 33坂本衛「 NHK受信料は、なぜ高いのか?」イースト・プレス特別取材班編『徹底検証! NHKの真相』イースト・プレス , 2005, pp.41-45. 34島桂次 NHK元会長(平成元年 4月〜3年 7月)は、回顧録に「問題はテレビを持つ世帯の何%が実際に受信料を払っているかである。せいぜい 70%台だろうか。正確な数字は私にも分からないのだ。ただ、農村部にくらべて東京、大阪など大都市では契約率が目立って低いことは間違いない。(中略)地域によっては料金を払っていない方が、払っている方より多いという事実が明らかになれば、だれもバカ臭くて払わなくなるのは明らかだからだ。 NHKを殺すには刃物はいらない。この実態を明らかにしたらおしまいなのだ」と書いている。(島桂次『シマゲジ風雲録』文藝春秋 , 1995.2, pp.79-80.)
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W NHK改革の議論の本格化
○規制改革・民間開放推進会議
政府の「規制改革・民間開放推進会議」(議長:宮内義彦オリックス会長)では、電波に暗号をかけて受信料を支払った人だけが視聴できるようにする「スクランブル化」(すなわち有料放送化)を視野に入れた議論が行われてきた。平成 17年 12月に小泉首相に提出した答申 35では、不払いを「一時的な現象ではなく視聴の有無にかかわらず国民負担を求める制度が構造的に抱える問題が表面化した」と分析、「受信料収入で行う公共放送としての事業範囲は真に必要なものに限定する必要がある」として、以下の具体的施策を求めた。@子会社等の統廃合等(平成 18年度以降逐次措置)A外部取引における競争契約比率の向上(平成 18年度実施)B受信料収入の支出使途の公表(平成 18年度から実施)C公共放送の在り方の検討(平成 18年度検討・早期に結論)特に、Cの「公共放送の在り方の検討」の内容として、地上波デジタル放送のスクランブル化36の是非を含む受信料制度の在り方、保有チャンネル数・業務範囲の見直し、および BSデジタル放送のスクランブル化 37を挙げた。平成 18年 3月には、内閣は答申をもとにして、「規制改革・民間開放推進 3ヵ年計画(再改定)」を閣議決定する見込みである。同会議は、平成 18年度の重点検討課題にも、「公共放送の在り方の見直し」を挙げている。
○竹中総務大臣の懇談会
一方、竹中平蔵総務大臣は、通信と放送の融合時代に即した法整備を議論する私的懇談会「通信・放送の在り方に関する懇談会」(座長:松原聡東洋大学教授)を設置し、平成 18年 1月から検討を開始した。同懇談会では、 NHK改革について、「公共放送は必要だが、現在の NHKの事業範囲は大きすぎる」という認識のもと、@公共性、A事業範囲、Bガバナンス、C受信料制度を論点に議論する予定である 38。今後の議論としては、 NHKが担うべき公共性の範囲を見直すことでチャンネル数を削減し、残りをスクランブル化や部分民営化するなどの方向も考えられる。結論を半年で出し、6月に経済財政諮問会議が決定する「骨太の方針 2006」にも盛り込む方針である 39。

○与党内の動き
自民党内では、電気通信調査会の「通信・放送産業高度化小委員会」(委員長:片山虎之助参院幹事長)で、放送制度改革の検討が始められている。同小委員会では、 NHK受信料について、スクランブル化で視聴者を限定するのではなく、罰則を導入して徴収に強制力を持たせるという案で議論を始めている 40。また、自民党議員有志による勉強会、「NHKの民営化を考える会」(会長:愛知和男元防衛庁長官)が平成 17年 10月に発足、NHKの基本的な役割や受信料制度の存廃などについて、平成 18年の通常国会中にも意見をまとめる方針である。
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35『規制改革・民間開放の推進に関する第 2次答申』規制改革・民間開放推進会議 , 2005.12.
<http://www.kisei-kaikaku.go.jp/publication/2005/1221/item051221_02.pdf> 36電波法によってアナログ放送の終了期限は平成 23年 7月 24日と定められており、それ以降、地上波アナログ放送はデジタル放送に完全移行する。デジタル放送ではスクランブル化を容易に行うことができる。 37 BSデジタル放送のスクランブル化は、平成 10年 3月閣議決定の「規制緩和推進 3か年計画」に盛り込まれて以来、 3か年計画のたびに毎回検討課題として取り上げられてきている。 38「通信・放送の在り方に関する懇談会」第 2回会合(平成 18年 1月 23日)

<http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/policyreports/chousa/tsushin_hosou/index.html>

39総務省では「デジタル化の進展と放送政策に関する調査研究会」(座長:塩野宏東京大学名誉教授)でも、デジタル時代の公共放送について議論されており、平成 18年 6月に最終報告がまとめられる予定である。 40「NHK受信料不払い、罰則導入を議論」『日本経済新聞』 2006.1.27. ; 「放送改革インタビュー (1)片山虎之助・自民党参院幹事長」『読売新聞』 2006.1.5.
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○NHKの方針
これに対して NHKは、現在の公共放送の枠組みを維持した上での経営改善策を打ち出している。平成 18年度から 3か年の「中期経営計画」 41では、公共放送にふさわしい財源は受信料であり、スクランブル化は避けるべきだとした。その上で、サーバー型放送などの利用者が限定される新サービスには、利用に応じた財源を検討する必要を示している。経営計画は全体的に、受信料を財源とする公共放送部門の縮小に含みを持たせる内容となっており、以下のような項目が取り上げられた。・3年間は「テレビ 5波、ラジオ 3波」42の現状維持・放送が完全デジタル化される平成 23年に向け、衛星放送のチャンネル数整理の検討・経営委員会の監督機能の強化・3年間で全職員の 10%にあたる 1200人の削減・新サービスの開始(携帯端末向け放送、サーバー型放送)・受信料に「家族割引」制度導入・受信料未払いに対する民事手続きによる督促の活用、未契約に対する民事訴訟の準備 NHK実施の世論調査 43によると、受信料の支払い督促に対する賛否はほぼ半々であり、 NHKは平成 18年度から「最後の方法」としてそれを活用する方針である。一方で罰則の導入については、橋本元一会長は「報道機関の精神とはそぐわない」と否定的である 44。
NHKではこのほか、外部有識者による「デジタル時代の NHK懇談会」(座長:辻井重男情報セキュリティ大学院大学学長)で、受信料や公共放送の在り方を議論しており、平成 18年 5月にも報告書をまとめる予定である。

Xまとめ
1デジタル時代の公共放送像
公共放送の在り方については、デジタル時代を迎えての、多メディア・多チャンネル化の進展との関係を考えることが不可欠である。これまでの制度の前提であった「放送の公共性」の根拠(電波の希少性と、社会的影響力の大きさ)は、薄れていくものと考えられる。「デジタル時代の公共放送像」として、有識者はいくつかの見解を提示している。

A.多メディア・多チャンネル化は、少数の「視聴者全体を対象とした放送」から、多数の「特定の視聴者を対象とした放送」への市場変化を起こし、視聴者の選択肢の幅を広げる。しかし、質の高い番組の供給が必ずしも保証されるわけではなく、公的機関がその供給責任を持つ必要性が生じると考えられる 45。その方策としては、以下のような 2つのシナリオが想起される。a)現在のような「視聴者全体を対象とした放送」が、将来も視聴者に受け入れられるのであれば、 NHKには公共放送事業体としての役割が引き続き期待され得る 46。
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41『NHKの新生とデジタル時代の公共性の追及:平成 18年度〜 20年度 NHK経営計画』日本放送協会 , 2006.1.
<http://www3.nhk.or.jp/pr/keiei/keikaku/index.htm> 42地上波テレビ放送 2波(総合放送、教育放送)、衛星( BS)テレビ放送 3波(難視聴解消を目的とする放送、総合放送、ハイビジョン放送)、ラジオ放送 3波(総合放送、教育放送、 FM放送) 43『NHK新生プランに関する世論調査報告書』日本放送協会 , 2005.12.
<http://www3.nhk.or.jp/pr/keiei/plan/pdf/report/report.pdf> 44橋本会長記者会見要旨(平成 18年 1月 12日) <http://www3.nhk.or.jp/pr/keiei/toptalk/kaichou/k0601.html> 45中村清「放送事業」公益事業研究会編『日本の公益事業』白桃書房 , 2005, pp.102-104.
また、湧口清隆・内山隆「伝送路の多様化時代における放送の公共性」『公益事業研究』 54巻 2号, 2002.10, pp.33-41.は、コンテンツ(番組)の『価値財』的属性を根拠に、放送の公共性が失われないことを主張する。 46『「デジタル時代の公共放送に関する勉強会」報告書』(『放送研究と調査』 53巻 10号, 2003.10, pp.64-79.に収載、
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b)視聴行動が極端に分散し、 NHKの「視聴者全体を対象とした放送」としての存在意義が失われるのであれば、「NHKを維持運営する負担金」という現在の受信料制度は受け入れられ難くなる47。その場合には、質の高い番組の供給事業者に対して、公的機関が番組単位で資金を提供するという方策、例えば「公共サービス放送基金」のような制度もあり得る 48。

B.一方で、「放送の公共性」を根拠とする規制を撤廃し、放送業界にも「企業性を通じた公共性」を求めるべきだという立場からは、 NHKを民営化して自由競争に移行させるべきだという考えも導き出される 49。

2論点の整理
政府・与党内の NHK改革に関する議論は、大方、 NHKの必要性を認めた上で、その業務範囲、財源の見直しを行う方向(上記Aに沿った考え方)で進んでいる 50。
業務範囲の見直しの対象としては、@保有チャンネル数、Aインターネット利用サービス、B子会社等が行う商業活動、などが挙げられる。「公共放送の範囲」として不適切と認められる部分は、 NHK本体とは完全に会計分離した経営形態、財源で行うことを検討する必要があろう。特にインターネット利用サービスは、今後拡大が予想されるビジネス領域であり、 NHKに先導的役割を求めるのか、できる限り市場競争に委ねるのかが問われるところである。

同時に、人々の対価意識が高まる中で、「公共放送の財源」の在り方も問われている。罰則導入による受信料の強制徴収は、国民の不公平を解消し、 NHKに安定的な収入をもたらすことが期待できる反面、財源に公権力が介在するというマイナス面 51がある。また、スクランブル化は、視聴者を限定し、それを前提とした番組制作につながるため、公共放送の本質を歪める恐れがある。その導入方法については十分検討する必要があろう 52。
NHK改革の議論は、デジタル時代への対応が求められる放送制度全般の改革の中で、公共放送の役割と、それにふさわしい財源の在り方の策定を目的とするものといえよう。放送の公共性をどう確保していくかを念頭に、国民のメディア環境の将来像にもつながる議論が求められている。
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座長:長谷部恭男東京大学教授)では、デジタル時代の公共放送には、伝統的役割に新たな意義が与えられると同時に、デジタルデバイドの是正や、国際放送の強化といった新たな役割をも担うべきことになる、と指摘する。 47中村前掲注 3, pp.193-203. 48「公共サービス放送基金」は、 BBCの財源を検討したピーコック委員会が、 1986年に提出の報告書で提唱した。背景には、イギリスでは、法律にも明示されるように、商業放送も公共サービス放送と位置づけられていることが考えられる。 Report of the Committee on Financing the BBC (Chairman: Alan Peacock), Cmnd.9824, paras.682-689.

基金制度については、公的機関には主観性を伴う「質の審査」がなじまない、などの難しさも指摘される。(長谷部前掲注 2, pp.198-199.) 49林紘一郎『情報メディア法』東京大学出版会 , 2005.4, pp.219-227, 235-246. 50「NHK民営化」(すなわち Bの考え方)については、「特殊法人等整理合理化計画」(平成 13年 12月 18日閣議決定)で、 NHKの組織形態について講ずべき措置は「特殊法人のまま」とされており、小泉首相も民営化には否定的な発言を行っている。 51罰則のない現行制度を、「国営放送と異なる公共放送の特質は、国家と市民の間に位置していることであり、せいぜい民事法的な強制執行手段しか予想できない現行の受信料制度は、ある意味では、そうした位置づけに見事に対応している」と評価する考えもある。(浜田純一「展開する公共性と公共放送」『放送学研究』 47号, 1997, pp.97-98.)
放送政策研究会前掲注 22, p.61.も、「NHKに対しその放送を通じて不断に国民の要望、期待にこたえるような経営努力を促すことになる」と、罰則のない制度の意義を認める。 52諸外国でも公共放送のスクランブル化の事例はない。ただし、スウェーデンでは 1999年 4月のデジタル放送開始当初、公共放送( SVT)を含むデジタル放送すべてにスクランブルをかけ、有料放送方式とした。しかし、公共放送無料化の声が高まり、公共放送(と TV4)は無料で受信できる受信機が販売されるようになったという経緯がある。(NHK放送文化研究所編『データブック世界の放送 2005』日本放送出版協会 , 2005, pp.156-160.)
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(付表)諸外国の公共放送
日本イギリスフランスドイツ韓国アメリカ事業主体名称 NHK (日本放送協会) BBC (イギリス放送協会) France Television (フランス・テレビジョン) ※1 ARD(ドイツ放送連盟) ZDF(第 2ドイツテレビ ) ※1 KBS (韓国放送公社) PBS (公共放送サービス) ※1経営形態特殊法人公共放送事業体政府全額出資の国有会社公共放送事業体政府全額出資の放送公社非営利組織(348メンバー局が独立して放送を実施)財政事業収入【2006年度予算】 6218億円【2004年度決算】 38億 3530万ポンド (約 7670億円)【2004年度決算】 26億 6740万ユーロ (約 3730億円)※ラジオ等を含む公共放送機関全体では、【2005年度予算】 34億 6440万ユーロ (約 4850億円) ARD:【2004年決算】 60億 836万ユーロ (約 8410億円) ZDF:【2003年決算】 17億 6340万ユーロ (約 2470億円)【2004年決算1兆 2491億ウォ(約 1250億円)【2003年度(メンバー局合計)233350万ド(2680億円)主要財源受信料(96%)政府交付金(0.4%)副次収入(1.6%)受信許可料(77%)商業活動収入(17%)政府交付金(6%)受信機使用税・政府交付金 (64%)広告収入(29%)受信機使用税・政府交付金 (77%)広告収入(21%) ARD:受信料(82%)広告収入(2%) ZDF:受信料(86%)広告収入(6%)受信料(41%)広告収入(50%)個人寄付金(26%)連邦政府交付金(16%)企業からの拠出金(15%)州政府交付金(14%)予算承認国会経営委員会国会経営委員会経営委員会−受信料制度受信料額 (年額)カラー:14910円衛星カラー: 25520円カラー:126.5ポンド (約 25300円) 116.5ユーロ (約 16310円) 204.36ユーロ (約 28610円) 30000ウォ(約 3000円)受信料制度な徴収方法 NHKが徴収 BBCが徴収 (2005年から)政府が住居税徴収時に一括して徴収(自己申告制) ARDと ZDF共同運営の受信料徴収センター(GEZ)が徴収韓国電力に徴収を委託電気料金と一括して徴収罰則なし最高 1000ポンド (約 20万円)の罰金罰金未納者は 28日以下の刑務所収監最高 150ユーロ (約 21000円)の罰金 1ヶ月超の届出遅延、および 6ヶ月超の滞納には、最高 1000ユーロ(約 14万円)の罰金国税の滞納処分に準じた強制徴収不払い率 29.5%(2005年) 5.7%(2003年) (2004年までは)約 5~8% 8.2%(2003年)約 1%
※1フランス、ドイツ、アメリカには公共ラジオ放送の機関が別にあり、またフランス、ドイツには共同出資の公共テレビ放送(ARTE)もある1ポンド=200円、1ユーロ=140円、1ウォン= 0.1円、1ドル=115円で計算(出典)各国公共放送機関のホームページNHK放送文化研究所資料などをもとに作成

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